骨端症と闘いながら——インターナショナル牧場の執念

キョウエイマーチ 基本情報
生年月日1994年4月19日
性別
毛色鹿毛
産地北海道門別町
生産インターナショナル牧場
ダンシングブレーヴ
インターシャルマン
母の父ブレイヴェストローマン
馬主松岡正雄→松岡留枝
調教師野村彰彦(栗東)
主戦騎手松永幹夫→秋山真一郎
通算成績JRA26戦8勝・地方2戦0勝
主な勝ち鞍桜花賞(GⅠ)
報知杯4歳牝馬特別(GⅡ)
ローズS(GⅡ)
阪急杯(GⅢ)
京都金杯(GⅢ)
死亡2007年5月9日(13歳)

1994年4月19日、北海道門別町のインターナショナル牧場で生まれたキョウエイマーチは、誕生直後から苦難の道を歩んだ。骨端症という脚部不安が判明し、デビューさえ危ぶまれる状況だったが、牧場スタッフの懸命な治療が続けられ、何とかデビューまで漕ぎ着けることができた。

父ダンシングブレーヴは1986年の凱旋門賞・英2000ギニー・キングジョージなどを制した1980年代欧州最強馬の一頭。深くて重い欧州の芝で猛威を振るったこの馬のパワーは、娘にもしっかりと受け継がれた。また母インターシャルマンはダートで4勝を挙げた馬で、母父ブレイヴェストローマンは帝王賞馬オサイチブレベストなどダートの強豪を多数輩出したパワー血統。欧州のパワーと日本ダートのパワーが掛け合わさった、独特の配合だった。

ダートで大差圧勝——「パワーの怪物」現る

1996年11月、阪神ダート1200mの新馬戦でデビューした松永幹夫騎乗のキョウエイマーチは、2着に1秒7差という驚異的な大差で圧勝した。なおこの新馬戦の3着馬は後の菊花賞馬マチカネフクキタルだった。続く寒梅賞(ダート1400m)でも10馬身差の逃げ切り勝ち——「これはただ者ではない」という評判が一気に広まった。

芝に転じたエルフィンSでも勝利を挙げ、報知杯4歳牝馬特別では阪神3歳牝馬S2着のシーズプリンセスを7馬身差で一蹴してレコード勝ち。一方、メジロドーベルがチューリップ賞で3着に敗れていたこともあり、桜花賞の主役交代が一気に現実のものとなった。

1997年 桜花賞——不良馬場の阪神で4馬身差圧勝

大外18番枠・不良馬場——パワーが全てを制した日

当日の阪神競馬場は雨——馬場は不良となった。大外18番枠に入ったキョウエイマーチにとって、通常ならば不利な条件が重なったかに見えた。しかし実はこの「不良馬場」こそが、パワーを持ち味とするキョウエイマーチの最大の武器だった。

松永幹夫を背に先行したキョウエイマーチは、道中2〜3番手を追走。直線で先頭に立つと後続を突き放し、2着メジロドーベルに4馬身差——0.7秒差という圧倒的な着差で桜花賞を制した。スピードではなく「力でねじ伏せた」桜花賞だった。

主要戦績(抜粋)
レース着順備考
1996年新馬戦(阪神・D1200)1着松永幹夫・1秒7差の大差圧勝・3着マチカネフクキタル
1997年寒梅賞(D1400)500万1着10馬身差の逃げ切り
1997年エルフィンSOP1着稍重・芝初勝利
1997年報知杯4歳牝馬特別GⅡ1着7馬身差のレコード勝ち
1997年桜花賞GⅠ1着不良馬場・大外18番枠・4馬身差・メジロドーベル2着
1997年優駿牝馬(オークス)GⅠ11着重馬場・距離2400mが長すぎた
1997年ローズSGⅡ1着距離1800mで復活
1997年秋華賞GⅠ2着メジロドーベルに惜敗
1997年マイルCSGⅠ2着タイキシャトルに2馬身差・果敢に逃げて善戦
1999年阪急杯GⅢ1着5歳での重賞制覇
2000年京都金杯GⅢ1着6歳での重賞制覇・息の長い活躍

オークス惨敗と秋の雪辱——1600mの女王として

桜花賞圧勝の勢いでオークスに1番人気で臨んだが、2400mという距離は明らかにキョウエイマーチの適性を超えていた。重馬場での11着大敗——「距離が全て」を証明した敗戦だった。

しかし秋のローズS(1800m)では復活勝利。秋華賞ではメジロドーベルに惜敗したものの2着に健闘、マイルCSではサイレンススズカとの先行争いを制して先手を取り、タイキシャトルに2馬身差の2着と善戦した。その後も5歳で阪急杯、6歳で京都金杯と息の長い活躍を続け、2000年まで重賞戦線を沸かせた。

血統が語る「ダンシングブレーヴのパワー血統」

ダンシングブレーヴは日本では種牡馬としてあまり成功しなかったとも言われるが、キョウエイマーチはその数少ない大物産駒のひとつだ。父Lyphardはノーザンダンサー系の中距離血統として有名で、ダンシングブレーヴはその末脚とパワーを完璧に受け継いでいた。そのパワーに、ダートのパワー系種牡馬ブレイヴェストローマンの血が母方から加わることで、「芝でも重い馬場を力でねじ伏せる」という独特のスタイルが生まれた。

キョウエイマーチと近親の活躍馬

  • ダンシングブレーヴ(父)— 1986年凱旋門賞・英2000ギニー・キングジョージ・エクリプスS、欧州年度代表馬
  • Lyphard(父父)— ジャックルマロワ賞・フォレ賞・米仏リーディングサイアー
  • マルシュロレーヌ(曾孫・インペリアルマーチの孫)— 2021年BCディスタフ(米GI)制覇・日本調教馬として米国ダートGI初制覇の偉業
  • インペリアルマーチ(産駒・父Fusaichi Pegasus)— 2007年出産時にキョウエイマーチ死亡・牝系を繋いだ
  • ブレイヴェストローマン(母父)— オサイチブレベスト(帝王賞)等ダート強豪を多数輩出

【筆者の思い出】メジロドーベルファンには「憎き馬」——桜花賞の絶望的な強さ

正直なところ、キョウエイマーチは私にとって「憎き馬」だった。メジロドーベルを応援していた身としては、桜花賞のあの4馬身差はあまりにも絶望的だった。不良馬場とはいえ、全然歯が立たない——あの敗戦はかなり残念だった。

ただ、冷静に見れば1600m以下での強さは本物だったと思う。ダートで大差、芝でも重い馬場を力でねじ伏せるパワー——あの桜花賞は「強い馬が勝った」という結果だった。メジロドーベルファンの私でも、それは認めざるを得なかった。

そしてタイキシャトルの存在が惜しい。あの壁さえなければ、マイルCSや安田記念でもう一つGIを勝てていたかもしれない。シーキングザパールと同じく、タイキシャトルという絶対的な壁に何度も跳ね返された馬だった。

ただ、この馬を語る上で特筆すべきは牝系の繁栄だ。産駒はわずか4頭しか残せなかったが、その牝系からマルシュロレーヌが生まれた。2021年にBCディスタフ(米GI・ダート)を制し、日本調教馬として米国ダートGI初制覇という偉業を成し遂げた。骨端症を抱えながら桜花賞を制した馬の血が、海の向こうで歴史を作った——キョウエイマーチという馬の底力を感じずにはいられない。

キョウエイマーチ この馬を一言で言うなら

  • 骨端症を乗り越えたダートの怪物が、不良馬場の桜花賞でパワーを爆発させた
  • ダート新馬1秒7差・ダート重賞10馬身差・桜花賞4馬身差——「大差」が似合う豪快な馬
  • 父ダンシングブレーヴの欧州パワー×母父ブレイヴェストローマンのダートパワー——重い馬場が天敵ならぬ「友」だった
  • オークス11着・距離2400mは完全に守備範囲外——1600m前後に絞った時の強さは本物
  • 産駒わずか4頭ながら牝系が繁栄——曾孫マルシュロレーヌが2021年BCディスタフを制し日本調教馬として米国ダートGI初制覇の偉業を達成