「勝てない名馬」の誕生——3年で3勝止まり

ステイゴールド 基本情報
生年月日1994年3月24日
性別
毛色黒鹿毛
産地北海道白老町
生産白老ファーム
サンデーサイレンス
ゴールデンサッシュ
母の父ディクタス
馬主(株)サンデーレーシング
調教師池江泰郎(栗東)
主戦騎手熊沢重文(〜目黒記念前)
武豊(目黒記念以降)
通算成績50戦7勝
主な勝ち鞍ドバイシーマクラシック(G2)
香港ヴァーズ(GⅠ)
日経新春杯(GⅡ)×2
目黒記念(GⅡ)
異名シルバーコレクター
ゴドルフィンキラー
死亡2015年1月5日(20歳)

1994年3月24日、北海道白老町の白老ファームに生まれた黒鹿毛の牡馬。父サンデーサイレンス、母ゴールデンサッシュ(父ディクタス)——母の伯父にはマイルチャンピオンシップを制したサッカーボーイがいる血統だ。

1996年暮れにデビューし、3歳(旧4歳表記)の阿寒湖特別(900万下)を含めデビューから3年で3勝を挙げた。しかしGI・GIIでは重賞常連として掲示板を常に賑わせながら、なかなか勝ちきれない。上がり最速の末脚で追い込んでくるのに、あと一歩のところで届かない——「シルバーコレクター」という愛称がいつしか定着した。この間、主戦を務め続けたのは熊沢重文だった。

そして2000年の目黒記念——陣営はついに熊沢から武豊への乗り替わりを決断した。長年ステイゴールドを乗り続け、勝てない日々を誰よりも知っていた熊沢の心情を思い、武豊は気まずい気持ちも抱えながらその鞍に跨った。しかしゴール後、熊沢は屈託なく勝利を祝福したという。そのひと言に武豊の心は軽くなった——そんな逸話が残っている。

「勝てない」から「勝てるようになった」——7歳での覚醒

転機は2001年——7歳を迎えたステイゴールドに、突如として「スローペースからの瞬発力勝負」への対応力が備わった。日経新春杯では上がり34秒4、失格となった京都大賞典では上がり33秒8という破格の末脚を見せ、武豊をして「今がまさにピーク」と言わしめるほどの充実期を迎えた。

しかし陣営には、すでに引退・種牡馬入りのスケジュールが組まれていた。7歳馬が「今ピーク」という異常事態の中、その引退レースとして選ばれたのが香港ヴァーズ(GI・芝2400m)だった。

2001年 香港ヴァーズ——「ゴドルフィンキラー」誕生の瞬間

引退レースで悲願のGI制覇

当日14番枠(大外)からスタートしたステイゴールドを、武豊は後方に控えさせた。コーナーを回りながら徐々に進出し、直線で満を持して追い出すと、先行するゴドルフィン所属の有力馬たちを次々と交わしていった。ゴール板を先頭で駆け抜けた瞬間——50戦目、引退レースでの悲願のGI初制覇だった。

このレースでゴドルフィンの有力馬2頭を撃破したことから「ゴドルフィンキラー」の異名も贈られた。なお同じ2001年3月のドバイシーマクラシック(G2)では、カルティエ賞年度代表馬ファンタスティックライトを差し切って優勝——香港ヴァーズより先に海外で結果を出していた。この年の春から秋にかけての充実ぶりは、まさに「7歳での覚醒」そのものだった。

「ステイゴールドは、今がまさに競走生活のピークじゃないですか。種馬になるのも大事だけど、ボクは乗り役だから、あれほどの競馬ができる馬を種牡馬として奪われたような、そんな寂しさをひしひしと感じているんです」 — 武豊騎手、ステイゴールド引退時のコメント
主要戦績(抜粋)
レース着順備考
1998年天皇賞(春)GⅠ2着メジロブライトの2着
1999年天皇賞(春)GⅠ5着スペシャルウィークの5着
1999年ジャパンCGⅠ6着スペシャルウィークの6着
2000年目黒記念GⅡ1着重賞初制覇
2001年日経新春杯GⅡ1着上がり34.4の末脚
2001年京都大賞典GⅡ失格斜行による失格・上がり33.8
2001年ドバイシーマクラシックG21着ファンタスティックライト撃破・カルティエ賞年度代表馬
2001年香港ヴァーズGⅠ1着引退レース・悲願のGI初制覇

種牡馬として——「シルバーコレクター」が生んだ黄金の産駒たち

引退後はビッグレッドファームで種牡馬入り。当初は小柄・晩成・ステイヤー体質と敬遠される要素も多く苦戦も予想されたが、格安の種付料もあり「国際GI馬が安く種付けできる」と人気を集めた。

そして2011年、産駒オルフェーヴルが三冠を達成。翌2012年にはゴールドシップが有馬記念を含むGI3勝、ドリームジャーニーもGI2勝——「シルバーコレクター」が、種牡馬として「黄金の産駒」を生み出す最高種牡馬へと変貌を遂げた。現役時代の勝ちきれない姿が嘘のように、産駒たちは強烈な個性と末脚で時代を席巻した。

血統が語る「サンデー×ディクタスという欧州底力血統」

ステイゴールドの血統の特徴は、母父ディクタスの存在だ。ディクタスはフランス産の長距離向き種牡馬で、その産駒・サッカーボーイはマイルチャンピオンシップを制した。ステイゴールドはその伯父にあたる。ディクタスの血にはフランス系の欧州スタミナ・底力が凝縮されており、それがサンデーサイレンスのスピードと組み合わさることで、「直線でじわじわと伸び続ける」独特の末脚が生まれた。

さらに母母ダイナサッシュの父ノーザンテースト(メジロブライト記事でも登場した名種牡馬)が加わることで、欧州系スタミナが二重に重なる配合となっている。この欧州底力血統こそが、産駒オルフェーヴル・ゴールドシップという「個性的な怪物」を生み出した源泉だった。

ステイゴールドの近親と主な産駒

  • サッカーボーイ(伯父・母の伯父)— マイルCS・阪神3歳S・産駒にヒシミラクル・ナリタトップロード
  • オルフェーヴル(産駒・母オリエンタルアート)— 三冠・有馬記念2勝・凱旋門賞2着
  • ゴールドシップ(産駒・母ポイントフラッグ)— 有馬記念・宝塚記念等GI6勝
  • ドリームジャーニー(産駒)— 有馬記念・宝塚記念
  • ナカヤマフェスタ(産駒)— 宝塚記念・凱旋門賞2着
  • フェノーメノ(産駒)— 天皇賞(春)2連覇

【筆者の思い出】パッとしなかった現役時代——それだけに最後の輝きが眩しかった

正直なところ、現役時代のステイゴールドは「パッとしない馬」という印象だった。よくて2着・3着。時には惨敗も繰り返す。重賞戦線に長く居続けるのに、なかなか勝てない。馬券的には「たまに穴をあける馬」くらいの認識しか持っていなかった。

それだけに、最後の輝きは眩しかった。ドバイシーマクラシックで負かしたファンタスティックライトは、その時代の欧州最強馬と言っていい存在だった。そんな馬を差し切ったとき、「このステイゴールドが?」という驚きが先に立った。そして引退レースとなった香港ヴァーズでついにGI勝利——長年の「シルバーコレクター」の記憶が一気に塗り替えられた瞬間だった。

しかしその輝きは、繁殖に上がってさらにきらめいた。オルフェーヴル、ゴールドシップ、ドリームジャーニー——「あのパッとしなかった馬が、なぜこんな怪物たちを生むのか」という驚きは、現役時代を知っているからこそ格別だった。ステイゴールドという馬は、競走馬としてよりも種牡馬として、より強く記憶に刻まれている。

ステイゴールド この馬を一言で言うなら

  • 50戦・2着12回・3着8回——「シルバーコレクター」が引退レースで掴んだ悲願のGI制覇
  • 7歳での急激な覚醒——武豊が「今がピーク」と惜しんだ引退
  • ゴドルフィンキラー——香港・ドバイで欧州の名門を撃破した国産馬の誇り
  • 父サンデーサイレンス×母父ディクタスという欧州底力血統が個性の源泉
  • 産駒オルフェーヴル・ゴールドシップ・ドリームジャーニー——「シルバー」が生んだ「黄金の時代」
  • 2015年1月5日、20歳で大往生——波乱に富んだ競走生活の末に最高の種牡馬として名を残した