英国・Watership Down Studから金子真人へ——偶然が生んだ縁

ブラックホーク 基本情報
生年月日1994年5月14日
性別
毛色鹿毛
産地英国(Watership Down Stud)
Nureyev
シルバーレーン(Silver Lane)
母の父Silver Hawk
馬主金子真人
調教師国枝栄(美浦)
主戦騎手蛯名正義→横山典弘
通算成績28戦9勝
主な勝ち鞍スプリンターズS(GⅠ)
安田記念(GⅠ)
スワンS(GⅡ)
阪急杯(GⅢ)
ダービー卿CT(GⅢ)
死亡2015年7月22日(21歳)

1994年5月14日、英国のWatership Down Studで生まれたブラックホーク。この牧場はアンドルー・ロイド・ウェバー(ミュージカル「キャッツ」「オペラ座の怪人」の作曲家)が経営する英国の生産牧場だ。父Nureyevは英2000ギニーを1着入線しながら他馬への干渉で失格となった悲運の名馬で、その後種牡馬としてフランスでリーディングサイアーを獲得した欧州を代表するNorthern Dancer直仔。母シルバーレーンも仏G3グロット賞勝ち・愛オークス3着という牝馬だ。

この馬が日本にやってきた経緯にはちょっとした偶然がある。馬主の金子真人と国枝栄調教師が海外のセールに参加した際、同じホテルに宿泊。偶然トイレで隣になった2人が意気投合し、ブラックホークを国枝厩舎に預けることが決まったという。その国枝厩舎は当時まだ開設からさほど経っていない若い厩舎だった——後にアパパネ、アーモンドアイという三冠牝馬を管理するとは、誰も想像していなかった。

長い下積み——タイキシャトルという「超えられない壁」

1997年1月、中山芝1600mの新馬戦を1番人気・岡部幸雄騎乗でデビュー勝ち。しかしその後は脚元のトラブルが続き、3歳夏に8ヶ月、4歳夏には1年以上の長期休養を余儀なくされた。ソエ(管骨骨膜炎)という脚部不安との闘いが、この馬の若い時代を支配した。

900万下、準オープン、ダービー卿チャレンジトロフィー(GⅢ)と着実に条件を上げていくが、この時期のマイル路線には絶対王者タイキシャトルが君臨していた。スワンSこそ制したものの、マイルCSでは3着止まり——「素質はある、でもタイキシャトルには勝てない」というもどかしい日々が続いた。

横山典弘の「慧眼」——スプリントへの転身

「この馬はマイルよりスプリントだよ」

1999年のマイルCS。横山典弘はブラックホークではなく別の馬に騎乗し、後方からブラックホークの走りを観察し続けていた。レース後、横山は管理する国枝栄調教師にこう告げた——「この馬はマイルよりスプリントだよ」。

かつてブラックホークに騎乗したことがあり、その特性を熟知していた横山の目には、直線での末脚の爆発力がマイルよりも短い距離に向いていることが見えていた。陣営もブラックホークがスプリンター体型に近づいてきていると判断し、横山の進言を受け入れた。

こうして1999年のスプリンターズSに出走することが決定——横山典弘が久しぶりに手綱を握ることにもなった。

1999年 スプリンターズS——アグネスワールドをクビ差で捉える

当日のスプリンターズSには、アベイ・ド・ロンシャン賞(仏G1)制覇のアグネスワールド(1番人気)、前年覇者マイネルラヴ、高松宮記念馬マサラッキ、そして前年タイキシャトルの引退レースで2着に粘ったキョウエイマーチなど豪華な顔ぶれが揃っていた。ブラックホークは2番人気だった。

レースが始まるとアグネスワールド・マイネルラヴ・トキオパーフェクトがハナを進み、ブラックホークはそれを追う好位から競馬。直線でアグネスワールドが先頭に立って抜け出したが、末脚が尽き始めたアグネスワールドめがけて猛然と突っ込んできたブラックホークが、ゴール寸前でクビ差交わして先頭でゴールへ飛び込んだ。

金子真人にとっても、国枝栄にとっても、これが記念すべきGI初制覇だった。横山の慧眼が生んだ、文字通りの「転機」だった。

主要戦績(抜粋)
レース着順備考
1997年新馬戦(中山・芝1600)1着岡部幸雄・1番人気
1998年ダービー卿CTGⅢ1着重賞初制覇
1999年スワンSGⅡ1着長期休養明け復帰後の重賞制覇
1999年マイルCSGⅠ3着エアジハード1着・横山が「スプリント向き」と進言
1999年スプリンターズSGⅠ1着横山典弘・アグネスワールドをクビ差・GI初制覇
2000年阪急杯GⅢ1着重賞4勝目
2000年高松宮記念GⅠ4着キングヘイローに惜敗
2001年安田記念GⅠ1着9番人気・GI2勝目・直後に骨膜炎で引退

7歳・9番人気での安田記念制覇——最後の輝き

スプリンターズS制覇後もスプリント・マイル路線で着実な成績を残し続けたブラックホーク。そして2001年の安田記念——この時点で7歳、単勝9番人気という低評価だった。しかしレースでは好位から鮮やかに抜け出し、2冠目のGI制覇を果たした。

「重賞5勝はちょうど毎年1勝ずつの記録」——1998年ダービー卿CT、1999年スワンS・スプリンターズS、2000年阪急杯、2001年安田記念と、5年連続で重賞を1勝ずつ積み重ねた安定感も、この馬らしいエピソードだ。安田記念の直後、骨膜炎の診断を受けてそのまま引退となった。

血統が語る「Nureyev(Northern Dancer)×Silver Hawk(Roberto)——欧州スピードの融合」

ブラックホークの血統の核心は、父NureyevのNorthern Dancer系と母父Silver HawkのRoberto系という欧州2大血統の組み合わせだ。NureyevはNorthern Dancerの直仔でSadler’s Wellsと同父(どちらもNorthern Dancer産駒)にあたる欧州最高クラスの種牡馬。Silver Hawk(Roberto系・Hail to Reason系)はBroken Sword、Dayjur、Danehillの父としても知られる名種牡馬だ。

父方はNorthern Dancer→Nureyevという欧州マイル最強系統、母方はRoberto→Silver Hawkというパワー系統——この組み合わせが「マイルから1200mにかけての瞬発力とパワー」という独自の適性を生み出した。5歳秋に横山の目がその特性を見抜くまで、血統の真価は隠れていたとも言える。

ブラックホークと近親の活躍馬

  • Nureyev(父)— 英2000ギニー失格・仏リーディングサイアー・Sadler’s Wellsと同父(Northern Dancer産駒)
  • Silver Hawk(母父)— Roberto系・Dayjur・Danehillの父としても有名
  • ピンクカメオ(半妹・父Cadeaux Genereux)— 2007年NHKマイルC制覇・シルバーレーンの日本移送後の産駒
  • ホークスター(近親)— 快速で知られたスプリンター
  • マルターズホーク・シベリアンホーク(近親・シルバーレーンの日本の産駒の産駒)— 重賞で活躍

ブラックホーク この馬を一言で言うなら

  • 5歳まで重賞1勝——「タイキシャトルの陰」で燻り続けた遅咲きの名馬
  • 横山典弘の「この馬はスプリント向き」という一言が運命を変えた
  • スプリンターズS・安田記念とGI2勝——スプリントとマイル双方の頂点を制した稀な馬
  • 7歳・9番人気での安田記念制覇——引退レースを勝利で飾る有終の美
  • 金子真人・国枝栄コンビの「初GI」を捧げた記念碑的な存在
  • 重賞5勝が「5年連続で1勝ずつ」という珍記録——息の長い活躍を象徴